先に結論を言うと、創業計画書は各欄を別々に埋める書類ではありません。「なぜ自分がこの事業を始められるのか」「誰に何をどう売るのか」「いくら必要で、毎月いくら残るのか」を、事実と計算根拠でつなぐ書類です。
書き始める前に押さえたい3つの原則
1. 提出用の様式を確認する
創業計画書は、PDFまたはExcelで入手できます。本記事は2026年8月13日時点の様式に沿っています。提出するときは、創業計画書のダウンロードページで最新版を確認してください。
2. 文章より先に根拠を集める
物件資料、設備や内装の見積書、商品価格、仕入条件、勤務歴、資格、想定客数などを先に整理します。そのうえで、販売計画、仕入計画、資金計画、売上予測、収支計画の順に具体化すると、数字のつながりを確認しやすくなります。
3. 全項目の整合性を確認する
たとえば営業時間を長く設定すれば、人員や人件費にも影響します。高品質な材料を強みにするなら、仕入先や売上原価にも反映されるはずです。一つの欄を修正したら、関連する文章と数字も見直します。
1・2 「創業の動機」「経営者の略歴等」の書き方
1. 創業の動機
創業の目的、創業を志した経緯、これまでの準備、今この時期に始める理由をつなげます。単に「店を持つのが夢だった」「よい物件が見つかった」だけで終わらせず、経験を積んだ過程や実現したい事業像まで書きます。
書く前に整理すること:いつから考えていたか、どの経験から実現できると判断したか、顧客にどんな価値を提供したいか、物件・資金・家族の理解などの準備はどこまで進んでいるか。
記入例:飲食店で8年間勤務し、直近3年間は店長として仕入、原価管理、従業員教育を担当しました。勤務先で好評だった地元食材を生かした料理を、仕事帰りの会社員が一人でも利用しやすい形で提供したいと考え、出店候補地の通行量調査と物件選定を進めてきました。希望条件に合う物件が見つかり、自己資金と家族の理解も得られたため創業します。
2. 経営者の略歴等
勤務先名だけでなく、担当業務、役職、身につけた技能や実績を書きます。創業する事業に直接関係する経験は、年数だけでなく「何を任され、何ができるか」まで具体化します。過去の事業経験、取得資格、許認可・届出、知的財産権等も事実に沿って記入します。
記入例:2018年4月〜2023年3月 株式会社○○ダイニング勤務。調理、接客、発注、棚卸しを担当。2023年4月〜2026年7月 同社○○店店長。従業員8名のシフト管理、月次の原価管理、販促企画を担当。調理師免許取得済み。
3 「取扱商品・サービス」の書き方
この欄では、何を、誰に、いくらで、どのように提供するのかを具体化します。取扱商品・サービスと売上シェア、客単価または受注単価、営業日数、定休日、営業時間、自社の強み、販売ターゲット・販売戦略、競合・市場などを整理します。
商品構成と価格
主力商品を売上シェアとともに整理し、価格帯や客単価を示します。商品数を並べるだけでなく、どの商品が売上の中心になるかを明らかにします。
記入例:ランチ定食(売上シェア35%、客単価1,100円)、地元食材の小皿料理(40%)、飲料(25%)。夜の客単価は3,500円。月25日営業、定休日は日曜、営業時間は11時30分〜14時、17時30分〜22時30分。
強み・販売戦略・市場
「味がよい」「丁寧に接客する」のような抽象語ではなく、経験、調達方法、提供工程、立地、営業時間など、再現できる違いを書きます。販売ターゲットは年齢だけでなく、利用場面や来店理由まで考えます。競合については、近隣店の価格、商品、営業時間、客層などを実際に調べ、自店が選ばれる理由を説明します。
記入例:店長経験で築いた生産者との取引を生かし、週替わりで地元野菜を使った小皿料理を提供します。駅徒歩5分の立地で、平日の一人利用と2〜4名の少人数利用を中心に想定します。近隣の同価格帯3店を調査し、各店より早い17時30分から営業することで早い時間帯の需要を取り込みます。
4〜6 「従業員」「取引先・取引関係等」「関連企業」の書き方
4. 従業員
法人の場合の常勤役員数、3か月以上継続雇用を予定する従業員数、そのうち家族従業員とパート従業員の人数を記入します。商品・営業時間・席数や受注量に対して無理のない体制か、人件費の計画と一致しているかを確認します。
記入例:常勤役員1名、従業員2名(うちパート2名)。ランチ1名、夜2名を基本にシフトを組み、繁忙時間は経営者を含む3名で対応。
5. 取引先・取引関係等
販売先、仕入先、外注先について、取引先名、所在地、取引割合、掛取引の割合、回収・支払条件を記入します。一般消費者への現金・キャッシュレス販売が中心なら、その前提を示します。仕入先は必要な時期に必要量を安定して確保できるか、支払条件が資金繰りにどう影響するかも確認します。
記入例:販売先は一般個人100%、現金・キャッシュレス決済で販売時回収。主な仕入先は株式会社○○食品(食材の60%、月末締め翌月末払い)と○○青果(20%、都度払い)。
6. 関連企業
申込人、法人代表者または配偶者が経営する企業がある場合に、企業名、代表者名、所在地、業種、従業員数を記入します。該当する企業がなければ、そのことが分かるようにします。
7 「お借入の状況」の書き方
個人の借入先、使いみち、借入残高、年間返済額を記入します。法人で申し込む場合は代表者の借入状況です。事業、住宅、車、教育、カード、その他に分け、返済中のものを正確に整理します。
記入例:○○銀行/住宅/借入残高1,800万円/年間返済額96万円。○○ファイナンス/車/借入残高80万円/年間返済額36万円。
この年間返済額は、事業の見通しから得られる利益とあわせて、創業後の返済可能性を考える材料になります。残高は記入時点の資料で確認し、推測で書かないようにします。
8 「必要な資金と調達方法」の書き方
左側の「必要な資金」と右側の「調達の方法」の合計を一致させます。必要な資金は設備資金と運転資金に分け、設備は見積先と内訳、運転資金は仕入や経費支払いの内訳を具体的にします。調達方法は自己資金、親族・知人等からの借入、日本公庫からの借入、他の金融機関等からの借入に分けます。
| 必要な資金 | 金額 | 調達の方法 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 店舗保証金・内装工事 | 600万円 | 自己資金 | 400万円 |
| 厨房機器・什器備品 | 350万円 | 親族からの借入 | 100万円 |
| 仕入・家賃・人件費等の運転資金 | 250万円 | 日本公庫からの借入 | 700万円 |
| 合計 | 1,200万円 | 合計 | 1,200万円 |
設備資金は見積書と一致させます。運転資金は「一式」で済ませず、仕入、家賃、人件費、広告費など、支払いまでの期間を含めて見積もります。希望どおりに資金を調達できない場合や、中古設備を使う場合も想定して、代替案を考えておきましょう。
9 「事業の見通し(月平均)」の書き方
創業当初と、1年後または軌道に乗った後について、月平均の売上高、売上原価、人件費、家賃、支払利息、その他経費と利益を記入します。右側には、それぞれを計算した根拠を書きます。
売上高の根拠
業種に合った単位に分解します。飲食店なら「客単価 × 席数 × 回転数 × 営業日数」のように計算します。昼と夜、平日と休日など条件が違う場合は分けて考えます。
計算例:ランチ1,100円 × 20席 × 1.2回転 × 25日 + 夜3,500円 × 20席 × 0.7回転 × 25日 = 月売上約188万円。軌道に乗った後は、認知向上によって見込む回転数の変化と、その時期を示します。
原価・経費・利益の根拠
売上原価は商品構成と仕入価格から計算します。人件費は人数、時給、勤務時間、営業日数から、家賃は契約条件から、支払利息は借入予定額と条件から整理します。その他経費には、水道光熱費、通信費、広告費、消耗品費などを漏れなく含めます。
利益は「売上高 − 売上原価 − 経費」です。さらに、減価償却費と利益を返済財源として捉え、そこから借入金の返済元金と、個人事業の場合は家計費を差し引いて、手元に資金が残るかを確認します。創業計画書の利益だけで終わらず、返済と生活を続けられるかまで考えましょう。
10. 自由記述欄
自由記述欄には、アピールポイント、事業を行ううえでの悩み、希望するアドバイス等を記入できます。ほかの欄と同じ説明を繰り返すのではなく、計画の補足、準備中の課題、相談時に確認したいことを具体的に書きます。
記入例:開店後3か月間の集客に不確実性があるため、運転資金は家賃・人件費・仕入代を含めて計上しました。売上が計画を下回った場合は広告出稿を段階的に見直す予定です。運転資金の見積期間と借入返済開始時期について助言を希望します。
完成前のチェックリスト
- 創業の動機が、経験・準備状況・事業内容につながっている
- 略歴に担当業務、役職、身につけた技能を書いている
- 商品、価格、売上シェア、顧客、販売方法を具体化している
- 従業員数と営業時間、人件費に矛盾がない
- 仕入先、販売先、回収・支払条件を確認している
- 借入残高と年間返済額を最新資料で確認している
- 設備資金に見積先と金額を記載し、見積書と一致している
- 必要な資金と調達方法の合計が一致している
- 売上、原価、経費を計算式や資料で説明できる
- 創業当初と軌道に乗った後の違いに具体的な理由がある
- 自由記述欄に、計画の補足や相談したい課題を具体的に書いている
書き終えたら、創業計画書セルフチェックも使って、申込前にもう一度確認しましょう。
よくある質問
すべての欄を埋める必要がありますか?
まずは自分に該当する項目を記入します。関連企業がない場合など、該当しない欄の扱いに迷うときは、勝手に別の情報で埋めず、事業資金相談ダイヤルまたは支店に確認してください。
記入欄に収まらない場合はどうしますか?
これまでの経験や事業内容を詳しく説明する資料がある場合は、創業計画書とあわせて提出できます。本文は要点を絞り、詳細資料との対応が分かるように整理します。
書いた後に相談できますか?
創業計画書のブラッシュアップについて、予約相談を利用できます。制度、手続き、記載方法の判断に迷うときは、日本政策金融公庫の窓口へ確認しましょう。
まとめ
創業計画書は、創業の動機から事業の見通しまでを一つの筋道にする書類です。最初から文章を整えるのではなく、経験、顧客、商品、取引条件、見積書、売上と経費の根拠を集め、項目の順番に整理しましょう。最後に、文章と数字、必要資金と調達方法、利益と返済のつながりを確認してください。