飲食店の創業計画書では、「どんな店を開きたいか」だけでなく、その店を運営できる経験、選ばれる理由、必要資金、客単価・席数・回転数から計算した売上、原価と経費を一貫させることが重要です。最初から記入欄を埋めるのではなく、店舗の運営条件と見積書を先に固め、文章と数字を相互に確認しましょう。

飲食店の創業計画書で大切な4つのつながり

日本政策金融公庫の創業計画書は、創業動機、略歴、商品・サービス、従業員、取引先、必要資金、借入状況、事業の見通しなどを記入する様式です。各欄を別々に考えず、次のつながりを確認します。

1. 経験と体制調理・接客・発注・原価管理を、実際の人員計画へ
2. 顧客と商品対象客・価格・立地・競合との差を、一つのコンセプトへ
3. 店舗と資金席数・厨房・工事・運転資金を、見積書から積み上げ
4. 売上と収支販売能力から売上を計算し、原価と経費を差し引く
4つは順番につながります。後ろの数字に無理があれば、前の店舗条件や運営体制へ戻って見直します。

記入例の前提:20席の地域密着型イタリアン

本記事で使う架空のモデルケース
項目設定
業態・立地駅から徒歩8分、住宅と小規模事業所が混在する地域のイタリアン
主な顧客平日昼は近隣勤務者、夜と週末は30~50代の近隣住民
店舗20席、月22日営業。昼と夜で客単価・回転数を分ける
運営店主が調理、正社員1人とパート・アルバイトで接客と調理補助
必要資金設備資金1,020万円、運転資金330万円、合計1,350万円
調達自己資金350万円、日本政策金融公庫からの借入希望1,000万円

実際に書く前に、「誰が来るか」「何をいくらで提供するか」「なぜ自分が運営できるか」「いくら必要か」「1日に何人へ提供できるか」を一枚のメモにまとめます。ここで矛盾があれば、計画書へ転記する前に事業条件を見直します。

経験・創業動機・商品・強みの書き方

創業動機は「思い・経験・準備・実現したい店」をつなぐ

記入前の質問:飲食業で何年、どの業務を経験したか。独立を考え始めたきっかけは何か。誰のどんな需要に応えるか。物件・仕入先・人員など、何を準備したか。

記入例:「イタリア料理店2店で計11年間、調理、メニュー開発、食材発注、原価管理を担当し、直近3年間は料理長として6名のシフト管理にも携わりました。勤務中、近隣のお客さまから、日常的に利用でき、野菜を多く使った料理を落ち着いて楽しめる店への要望を聞いてきました。これまでの仕入先との取引見込みと、住宅・事業所の双方から利用しやすい物件を確保できる見通しが立ったため、昼は週替わりランチ、夜は小皿料理とワインを提供する20席の店を開業します。」

「昔から夢だった」「良い物件が見つかった」だけでは、なぜ今、自分が実行できるのかが伝わりません。夢や物件はきっかけとして触れつつ、経験と具体的な準備を加えます。

略歴は担当業務・役割・実績まで書く

記入例:「20XX年4月~20XX年3月 Aレストラン(32席)で調理を担当。前菜・パスタ・仕込み・衛生管理を習得。20XX年4月~現在 Bダイニング(48席)に勤務。20XX年から料理長としてメニュー開発、月次原価管理、発注、スタッフ6名の教育・シフト作成を担当。季節メニューの見直しにより食品ロスを削減。」

勤務先名と年数だけでなく、開業後に必要となる技能を示します。売上増加やロス削減などを書く場合は、面談で期間・比較方法・自分の役割を説明できる事実に限ります。

商品・サービスはターゲット、価格、強みとセットにする

「取扱商品・サービス」へ整理する内容
項目モデルケースの記入例
内容・価格週替わりランチ1,100~1,400円、小皿料理600~1,200円、主菜1,600~2,400円、グラスワイン700円から
主な顧客平日昼は近隣勤務者、夜・週末は普段使いの外食を求める30~50代の近隣住民
強み料理長として培ったメニュー・原価管理経験を生かし、旬の食材を使った少量メニューを定期的に更新
競合との差周辺店の価格、営業時間、メニューを現地調査し、少人数で複数皿を注文しやすい構成と昼夜の利用動機で差別化

「おいしい」「接客がよい」だけでなく、誰にとって何が違うのか、その強みを実現できる経験や仕組みまで書きます。コンセプトに合わない品目を増やしすぎると、在庫、厨房能力、客単価の説明が崩れやすくなります。

顧客・集客・仕入先・従業員の書き方

集客策は対象・時期・方法を具体化する

記入例:「開業1か月前から店頭とSNSで内装工事・メニュー試作を発信し、近隣住宅1,500戸と周辺事業所へ開業案内を配布します。開業後は週2回、料理と営業日の情報を更新し、会計時に次回の週替わりメニューを案内します。平日昼は近隣勤務者、夜・週末は徒歩・自転車圏の住民へ内容を分けて発信します。」

フォロワー数や配布数だけで売上を確定させず、来店へつなげる内容、頻度、費用、担当者を整理します。競合調査はWebだけで済ませず、候補地周辺を曜日・時間帯を変えて確認し、価格、客層、混雑、視認性を記録します。

仕入先・決済条件は資金繰りまで確認する

記入例:「青果は勤務先で取引実績のあるC青果へ週3回発注、鮮魚・肉はD食品へ週2回発注予定。主要品の価格表と納品条件を確認済み。酒類はE酒店へ発注し、いずれも月末締め翌月末払いを相談中。販売は一般個人で、現金40%、カード・電子マネー60%を見込み、決済手数料と入金時期を経費・資金繰りへ反映します。」

「知人から安く仕入れる」ではなく、品目、発注頻度、価格、支払条件、代替先を確認します。掛仕入とキャッシュレス売上は、支払いと入金の時期がずれるため、運転資金にも影響します。

従業員数を営業時間と人件費につなげる

創業計画書の従業員欄と「事業の見通し」の人件費を一致させます。モデルケースでは、店主、正社員1人、昼夜のパート・アルバイトを想定し、曜日・時間帯別の必要人数から月間勤務時間を積み上げます。個人営業の場合、事業主本人の人件費は経費の人件費に含めないという公庫資料の注意にも留意します。

飲食店の開業資金と調達方法の記入例

必要資金は、まず設備資金と運転資金に分け、原則として見積書、契約条件、価格表などで積み上げます。金額を丸める前の明細も手元に残し、創業計画書の必要資金合計と調達方法合計を一致させます。

開業資金1,350万円の独自記入例
区分内訳金額確認資料
設備資金店舗内外装・給排気・電気工事520万円工事見積書、図面
厨房機器・冷蔵設備280万円機器見積書
家具・食器・POS等70万円購入見積書
保証金等150万円賃貸条件書
運転資金初回食材・酒類仕入60万円仕入価格表
開業時の広告・消耗品20万円媒体・備品見積書
売上が安定するまでの家賃・人件費・光熱費等250万円月別支払予定
合計1,350万円各明細と一致
調達方法の独自記入例
調達方法金額確認すること
自己資金350万円預金通帳等で蓄積過程を説明できる
日本政策金融公庫からの借入希望1,000万円返済期間・金利等は申込時の条件で試算する
合計1,350万円必要資金合計と一致
必要資金1,350万円と調達方法1,350万円を一致させます。比率はこの架空例の構成であり、公庫の基準ではありません。

内装工事は、物件の既存設備や電気・ガス・給排気容量で大きく変わります。「内装一式」とせず、追加工事の可能性まで施工会社へ確認します。すでに支払った費用は、領収書や請求書を整理してください。

客単価・席数・回転数から売上・収支計画を書く

公庫の資料では、飲食業などの売上予測の代表的な式として「客単価 × 席数 × 回転数 × 営業日数」が示されています。昼夜、平日・週末で条件が違う店は分けて計算します。席数があっても厨房や人員が対応できなければ売れないため、提供能力でも確認します。

昼夜や曜日で条件が違う場合は、別々に計算して合計します。

創業当初の月平均売上

20席のイタリアンの売上計算例
時間帯計算式月商
ランチ1,200円 × 20席 × 0.65回転 × 22日34.3万円
平日ディナー4,200円 × 20席 × 0.55回転 × 14日64.7万円
週末ディナー4,800円 × 20席 × 0.80回転 × 8日61.4万円
売上高(月平均、万円未満を調整)160万円

ランチ0.65回転は1日平均13人、平日夜0.55回転は1日平均11人という意味です。客単価はメニュー価格と注文構成、営業日数は定休日、回転数は営業時間・滞在時間・立地調査・勤務時の経験から説明します。予約済み団体などがある場合は、通常客と分けて根拠を示します。

売上原価と経費を差し引く

「事業の見通し(月平均)」の独自記入例
項目創業当初軌道に乗った後主な根拠
売上高160万円205万円時間帯別の客単価 × 席数 × 回転数 × 営業日数
売上原価54万円70万円メニュー別原価を集計し、売上の約34%で試算
人件費45万円52万円正社員給与とパート等の時給 × 勤務時間、事業主分を除く
家賃18万円18万円賃貸条件
支払利息3万円3万円借入残高 × 申込時の年利 ÷ 12を基に安全側へ調整
その他30万円36万円光熱費、決済手数料、広告、通信、消耗品、保険、修繕等
利益10万円26万円売上高-売上原価-経費
創業当初の月平均。利益からは借入金の返済元金や税金、個人事業主の場合は家計費も支出します。

軌道に乗った後を開業8か月目と想定し、再来店の増加と予約受付の定着により回転数が上がる計画とします。売上だけでなく、仕入とパート勤務時間、決済手数料、光熱費も増やします。「売上が1.3倍になる」とだけ書かず、いつ、どの施策で、どの計算要素が変わるかを示してください。

利益はそのまま自由に使える現金ではありません。公庫の「創業の手引」では、借入金の返済元金や個人事業主の家計費は経費に含めず、利益から支出する考え方が示されています。減価償却費、税金、返済、生活費と手元資金を月別に確認します。

飲食店の創業計画書で避けたい書き方

避けたい表現と改善の方向
避けたい書き方不足している点改善の方向
料理が好きなので、自分の店を持ちたい経営経験、顧客、準備が不明担当業務、運営実績、対象顧客、開業準備を加える
幅広い世代に本格料理を提供する対象と利用場面、価格が曖昧時間帯別の顧客と、具体的な商品・価格を書く
SNSで集客し、毎日満席を目指す施策と客数の根拠がない対象、投稿内容、頻度、来店人数を分けて考える
内装・厨房一式 1,000万円使途と見積先が不明工事、厨房、什器、保証金等に分け、見積書と一致させる
20席 × 2回転で毎日40人開業直後の認知、曜日差、提供能力を無視昼夜・曜日別に低めから置き、人員と厨房でも確認する
売上増加後も経費は変わらない仕入・人件費等との不整合売上に連動する原価と追加人員・経費を同時に増やす

提出前のチェックリスト

  • 創業動機に、経験、対象顧客、準備状況、実現したい店がつながっている
  • 略歴に調理・接客だけでなく、発注、原価、人員、売上管理の経験を書いた
  • ターゲット、商品・価格、立地、集客策、競合との差が一致している
  • 営業時間・従業員数・人件費・売上の前提が一致している
  • 仕入先、価格、納品頻度、支払条件、代替先を確認した
  • 設備資金を見積書等で積み上げ、追加工事の可能性を確認した
  • 開業後の仕入・家賃・給与等を運転資金へ含めた
  • 必要資金合計と調達方法合計が一致している
  • 売上を昼夜・曜日別に、客単価 × 席数 × 回転数 × 営業日数で説明できる
  • 売上原価、人件費、家賃、支払利息、その他経費に漏れがない
  • 利益から返済元金、税金、個人なら家計費を支払えるか確認した
  • 売上の下振れと経費の上振れでも資金が尽きないか月別に試算した

よくある質問

店長・料理長の経験がないと書けませんか?

役職名だけで判断せず、実際に担当した調理、接客、発注、衛生、売上・原価、人員管理を棚卸しします。不足する業務があれば、共同経営者・従業員の経験、開業前の研修、外部支援など、誰がどう補うかを具体化してください。個別の融資可否は公庫の判断です。

物件が未確定でも作れますか?

候補地の商圏、想定面積、席数、賃料上限を仮置きして計画できますが、物件が変われば工事費、席数、営業許可に関わる設備、家賃、売上能力が変わります。申込時に必要な資料と契約時期は、公庫の申込先支店へ事前に確認してください。

運転資金は何か月分を書けばよいですか?

一律の月数を当てはめず、月別収支で現金が最も不足する時点を確認します。開業直後の売上立ち上がり、仕入・給与・家賃・決済入金・返済の時期を並べ、不足額と予備費を自店の条件から計算します。

公庫資料の平均原価率をそのまま使えますか?

平均値は比較材料ですが、業態、価格、商品構成、廃棄、仕入条件が違います。自店のレシピと仕入価格から主力商品の原価を計算し、想定販売構成で加重平均した数字を基本に、公開されている業種別指標と比べて理由を説明します。

どの資料を一緒に用意しますか?

設備・工事の見積書、物件資料、メニュー・価格表、店舗図面、自己資金を確認できる資料、勤務経験や資格を補足する資料などを整理します。実際の提出書類は申込方法や状況で異なるため、日本政策金融公庫の最新案内を確認してください。

まとめ

飲食店の創業計画書は、魅力的な店の説明と、実行できる数字を結びつける書類です。まず経験、顧客、商品、立地、運営体制を固め、見積書から必要資金を積み上げます。売上は客単価・席数・回転数・営業日数へ分解し、原価・人件費・家賃などを差し引き、返済と生活まで含めて続けられるか確認してください。記入例は写さず、自店について各数字を選んだ理由を説明できる形に置き換えることが大切です。