先に結論を言うと、必要な資金を設備資金と運転資金に分けて具体的に積み上げ、その合計と調達方法の合計を一致させます。借入希望額から逆算して費用を並べるのではなく、見積書、契約条件、仕入・経費の支払予定を根拠に必要額を出し、自己資金などを差し引いて公庫からの借入額を決めます。

最初に押さえる3つのルール

この欄では、「必要な資金」を設備資金と運転資金に分けます。「調達の方法」には、自己資金、親族・知人等からの借入、他の金融機関等からの借入、日本政策金融公庫からの借入を記入します。

  1. 必要なものを漏れなく積み上げる。 金額が大きい工事や機器だけでなく、保証金、備品、開業時の仕入、広告費、開業後の支払いに備える資金も確認します。
  2. 確認できる根拠を用意する。 設備は見積先と金額を対応させ、見積書等を用意します。支払済みなら、領収書・請求書等も保管しておきます。
  3. 左右の合計を必ず一致させる。 「必要な資金の合計 = 調達方法の合計」です。調達方法に書いた金額だけでは足りない、または使いみちのない余剰が出る状態にしません。

基本式:設備資金 + 運転資金 = 自己資金 + 親族・知人等からの借入 + 他の金融機関等からの借入 + 日本政策金融公庫からの借入

必要な資金を設備資金・運転資金に分けて洗い出す

設備資金:長く使う店舗・機械・備品など

設備資金には、店舗、工場、機械、車両など、事業で継続して使う設備を記入します。飲食店なら、物件取得に伴う保証金、内外装工事、厨房機器、空調、看板、家具、POSレジなどを、見積先ごとに整理します。

飲食店で確認したい設備資金の例
区分確認する費用主な根拠
物件保証金・敷金、権利金、仲介手数料など物件資料、賃貸借契約の条件
工事内装、給排水、電気、ガス、空調、看板など工事項目の分かる見積書
厨房・店舗設備冷蔵庫、製氷機、熱機器、食洗機、テーブル、椅子など販売会社の見積書
業務機器POSレジ、予約端末、パソコン、電話など見積書、料金資料

概算だけで決めず、事業規模と調達できる金額を見ながら、出店地や設備のグレードまで検討します。工事については複数社から見積りを取り、同じような条件で比べると、価格の妥当性を判断しやすくなります。

運転資金:仕入や経費の支払いを続けるための資金

運転資金には、商品仕入や経費の支払いに使う資金を記入します。開業前後の仕入、広告宣伝費、人材募集費に加え、売上が計画どおり立ち上がらない間も家賃、人件費、水道光熱費などを払えるように見積もります。

  1. 「事業の見通し」に書く創業当初の月平均経費を確認する
  2. 仕入先の支払条件、従業員の給与日、家賃等の支払時期を確認する
  3. 開業直後に必要な初回仕入、広告、人材募集等を加える
  4. 売上の立ち上がりが遅れた場合の不足額を月ごとに試算する
  5. 手元に残す必要額を決め、費目別に記入する

飲食店では、創業時の広告宣伝費・人材募集費等に加え、事業開始後の赤字を補う資金も検討します。参考資料では半年程度が確認の目安として挙げられていますが、すべての事業者に一律で必要な月数という意味ではありません。自店の固定費、売上の立ち上がり、支払条件に置き換えて不足額を計算しましょう。

調達方法を整理し、公庫からの借入希望額を決める

必要資金が固まったら、「すでに準備できている資金」と「これから借りる資金」に分けます。公庫からの借入希望額は、必要資金から自己資金やほかの調達額を差し引いて求めます。

借入希望額の考え方:必要資金の合計 − 自己資金 − 親族・知人等からの借入 − 他の金融機関等からの借入 = 日本政策金融公庫からの借入希望額

自己資金

創業に使える預貯金など、実際に事業へ投入できる金額を書きます。自己資金は計画的に準備し、蓄積の過程を通帳などで確認できるようにしておきます。生活費や税金の支払いに必要な資金まで、無理に事業へ回す前提にしないことも重要です。

親族・知人等、他の金融機関等からの借入

借入先、金額だけでなく、返済方法を記入します。返済期間、毎回の返済額、利息の有無など、実際に合意した条件を整理してください。返済が必要な資金を自己資金として扱わず、調達先を正しく分けます。

日本政策金融公庫からの借入

左右の差額を機械的に書いて終わりではありません。「事業の見通し」で計算した利益から、税金、借入金の返済元金、個人事業なら事業主の生活費などを支払えるか確認します。必要な投資を削りすぎず、返済負担が重くなりすぎない規模へ調整する往復が必要です。

飲食店の記入例:必要資金1,170万円の場合

以下は、20席の洋風食堂を想定して新たに作成した架空例です。金額はすべて税込の試算とし、実際の計画では見積書や契約条件に置き換えます。

必要な資金の独自記入例
区分内訳・見積先金額
設備資金店舗内外装工事(A工務店)420万円
厨房機器(B厨房設備)210万円
テーブル・椅子・食器棚等(C商店)80万円
物件保証金150万円
POSレジ・予約端末等(D社)40万円
運転資金開業時の食材・飲料仕入50万円
開業広告・販促物20万円
採用・研修費15万円
家賃・人件費・水道光熱費等の支払準備185万円
必要な資金 合計1,170万円
調達方法の独自記入例
調達方法内訳・返済方法金額
自己資金預貯金から事業へ投入320万円
親族からの借入父から借入。合意した返済条件を記載100万円
日本政策金融公庫からの借入借入希望額750万円
調達方法 合計1,170万円

この例では、必要資金900万円の設備資金と270万円の運転資金を合計し、自己資金320万円と親族借入100万円を差し引いた750万円を公庫からの借入希望額としています。実際には、工事項目や運転資金185万円の計算根拠を別紙や面談で説明できる状態にします。

避けたい書き方と改善方法

必要な資金と調達方法で避けたい表現
避けたい書き方不足している点改善方法
店舗工事一式 600万円工事範囲と金額の根拠が分からない内装、電気、給排水等の内訳が分かる見積書と対応させる
運転資金 300万円何の支払いに何か月使うか分からない仕入、家賃、人件費、広告費等に分け、月別資金繰りから計算する
借りられるだけ借りたい資金の使いみちと必要額がない必要資金を先に積み上げ、他の調達額との差額を希望額にする
自己資金500万円実際に投入可能か、蓄積過程が分からない通帳等で確認でき、生活費等を除いて事業へ使える額を書く
家族から300万円もらう贈与か借入か、返済条件が不明事実に沿って資金の性質を分け、借入なら返済方法を書く
合計が左右で10万円違う資金不足または使いみち不明の資金がある内訳を再計算し、必要資金と調達方法の合計を一致させる

創業計画書のほかの欄・提出資料と照合する

「必要な資金と調達方法」は単独の表ではありません。書き終えたら、次のつながりを確認します。

  • 店舗の広さ、席数、商品構成に対して、工事・厨房機器・什器の内容が過大または不足になっていない
  • 従業員欄の人数と、運転資金・事業の見通しに含めた人件費が一致している
  • 取引先欄の仕入先・支払条件と、初回仕入や運転資金の計算がつながっている
  • 事業の見通しに書いた家賃、人件費、支払利息、その他経費と運転資金の内訳が矛盾していない
  • 設備資金の品目・金額・見積先が、見積書、契約書、支払済み資料と一致している
  • 現在の借入状況も含め、創業後の利益から無理なく返済を続けられるか確認している

見積額が変わったときは、その行だけでなく、必要資金合計、調達方法、公庫からの借入希望額、支払利息、利益の見通しまで更新します。

完成前のチェックリスト

  • 必要な設備を、見積先と金額が分かる単位で記入した
  • 保証金、什器、業務機器など小さく見えやすい設備費も確認した
  • 開業時の仕入、広告、人材募集等を運転資金に含めた
  • 売上が計画どおり立ち上がらない場合の支払いも試算した
  • 運転資金を費目と期間で説明できる
  • 自己資金は、実際に事業へ使えて確認できる金額である
  • 親族・知人等からの借入は、返済方法まで整理した
  • 必要資金と調達方法の合計が一致している
  • 見積書、領収書、請求書等の金額と一致している
  • 従業員、取引先、事業の見通し、現在の借入と矛盾がない
  • 借入返済後も、事業と生活を維持できるか確認した

よくある質問

金額は税込・税抜のどちらで書きますか?

この欄には、税込・税抜の一律の指定はありません。大切なのは、見積書と記入額の対応が分かり、必要資金全体で基準が混在しないことです。見積書の表示と消費税の支払いを踏まえて資金不足が出ないようにし、採用した基準を説明できるようにします。

すでに支払った費用も書きますか?

創業のためにすでに支払った設備等を含める場合は、支払済みであることが分かる領収書・請求書等を用意します。個別費用の取扱いは、申込先の公庫支店へ確認してください。

工事見積りは1社だけでもよいですか?

工事価格の妥当性や相場観をつかむため、2社以上から見積書を取ることが参考資料の確認項目に挙げられています。仕様をそろえて比較し、価格と業者の選定理由を説明できるようにしましょう。

運転資金は何か月分あればよいですか?

すべての事業に共通する一律の月数では決められません。半年程度の赤字補てん資金等も一つの目安にしながら、自店の売上立ち上がり、固定費、支払条件、手元資金をもとに月別で不足額を試算します。

合計が合わないときはどうしますか?

調達方法の合計が少なければ資金不足です。設備の仕様や開業規模を見直す、自己資金を増やす、調達先を再検討するなど、実行可能な計画へ戻します。必要資金を根拠なく削ったり、確定していない資金を自己資金として足したりして数字だけを合わせないでください。

まとめ

「必要な資金と調達方法」は、まず設備資金と運転資金を根拠から積み上げ、その全額をどう賄うか示す欄です。見積書や支払予定をもとに内訳を具体化し、左右の合計を一致させます。最後に、従業員、取引条件、事業の見通し、借入状況と照合し、借入後も返済と事業継続が可能かまで確認しましょう。