先に結論を言うと、売上予測は「単価 × 販売数量」のように分解し、それぞれの数字を選んだ理由まで説明できる形にします。さらに、設備能力、面積、従業者数など別の見方でも無理がないか確認し、創業当初の低めの予測と、軌道に乗った後の予測を分けます。

日本政策金融公庫の創業計画書で押さえる3点

創業計画書の「事業の見通し(月平均)」には、創業当初と、1年後または軌道に乗った後の売上高、売上原価、経費、利益を記入し、その算出根拠も示します。売上高だけを独立して考えず、商品・サービス、営業時間、従業員、取引先、経費とつなげることが大切です。

  1. 売上を構成要素に分ける。 「月300万円」ではなく、「客単価 × 客数 × 営業日数」などの式にします。
  2. 各要素の根拠を示す。 価格表、席数、営業時間、勤務時の実績、受注見込みなど、確認できる事実と対応させます。
  3. 下振れも試算する。 売上は低め、経費は多めに置いた場合でも、資金繰りと返済を続けられるか確認します。

創業時の売上予測を作る5つの手順

  1. 商品・顧客・販売方法を決める。 誰に、何を、どこで、どの時間帯に、いくらで販売するか整理します。
  2. 業種に合う計算単位を選ぶ。 客数、席数、設備能力、面積、従業者数、契約件数など、売上に直結する単位を選びます。
  3. 単価と数量の根拠を集める。 自店の価格設定と販売可能量を、店舗・設備・人員・営業日数と照合します。
  4. 創業当初と軌道に乗った後を分ける。 認知やリピート客が少ない開業直後から、最初から満席・フル稼働になる前提にしません。
  5. 利益と資金繰りまで確認する。 売上原価と経費を差し引き、返済や税金、個人事業なら生活費を賄えるか月別に確認します。

業種の特性に合う計算式を選ぶ

公庫の「売上高の計算方法について」では、業種特性に応じた複数の考え方が示されています。次の式はその考え方を、実務で使いやすい形に整理したものです。

売上予測に使える代表的な計算式
事業の特徴基本の考え方
席・施術台・予約枠が売上を左右する客単価 × 席数等 × 回転数 × 営業日数飲食店、美容室、サロン
機械や車両の能力が売上を左右する単価 × 1台当たり処理量 × 設備数 × 稼働日数製造、印刷、運送
売場面積と品ぞろえが売上を左右する面積当たり売上高 × 売場面積小売店
担当者の稼働が売上を左右する従業者1人当たり売上高 × 従業者数清掃、営業型サービス
案件・契約単位で受注する受注単価 × 月間件数Web制作、コンサルティング、建設

一つの式だけで決めず、別の方法でも確かめます。例えば飲食店なら、席数から計算した売上を、厨房の提供能力、人員配置、時間帯別の集客見込みから確認します。小売店なら面積当たり売上だけでなく、客単価 × 来店客数でも照合できます。

単価・数量・稼働率の根拠を示す方法

計算要素と用意したい根拠
計算要素確認する内容根拠の例
客単価・受注単価商品構成、平均購入点数、昼夜や曜日の違いメニュー・価格表、見積条件、勤務時の実績
席数・設備数実際に稼働できる数、予備や停止時間店舗図面、設備見積書、運営体制
回転数・件数営業時間、所要時間、予約枠、人員数営業時間表、施術・製造工程、シフト
営業日数定休日、臨時休業、仕込み・保守日営業カレンダー、人員計画
創業後の増加いつ、何を実行し、何が増えるか販促計画、採用時期、契約・受注見込み

業界平均を使う場合も、そのまま自店の数字にはしません。立地、規模、価格、営業時間、経験、販売戦略の違いを反映し、採用理由を説明します。平均値が自店の能力を上回るなら、設備や人員から計算した現実的な数字を優先します。

飲食店の独自計算例:18席の定食バル

以下は、平日のオフィス客と近隣住民を想定した18席の定食バルの架空例です。公庫の記入例を転載せず、計算の考え方が分かるよう条件と数値を新たに設定しています。

創業当初の月平均売上

時間帯別の売上予測
時間帯計算式月商
ランチ客単価1,100円 × 18席 × 0.7回転 × 22日約30.5万円
平日ディナー客単価3,800円 × 18席 × 0.5回転 × 14日約47.9万円
週末ディナー客単価4,200円 × 18席 × 0.8回転 × 8日約48.4万円
月平均売上高約126.8万円

創業計画書には万円単位で約127万円と記入し、根拠欄には時間帯ごとの式を書きます。客単価は想定メニューと注文構成、席数は図面、回転数は営業時間・滞在時間・人員配置、営業日数は定休日から説明します。

商品構成から客単価を確かめる

ディナー客単価3,800円なら、例えば「料理2品2,300円+飲料2杯1,500円」のように注文構成へ分解します。メニュー価格と合わない客単価や、営業時間内に提供できない客数になっていないか確認してください。

創業当初と軌道に乗った後を分ける

創業計画書では、創業当初と「1年後又は軌道に乗った後」を分けて記入します。売上を増やす場合は、単に「1.3倍」などと置くだけでなく、時期と変化の理由を示します。

軌道に乗った後の変化を説明する例
変化実行すること数字への反映
再来店が増える予約案内と再来店施策を開業時から実施ランチ0.7回転から0.9回転へ
週末需要を取り込む週末限定コースを3か月目から提供週末の客単価または回転数へ反映
販売能力が増える6か月目にスタッフを1人増員予約枠増加と人件費増加を同時に反映

売上だけが増え、仕入、人件費、決済手数料、水道光熱費などが変わらない計画は不自然です。売上原価は原価率との関係を、人員増は人件費との関係を同時に見直します。

月別収支計画で立ち上がりと下振れを確かめる

創業計画書は月平均ですが、開業月から毎月同じ売上になるとは限りません。公庫の月別収支計画書には、月ごとの売上高・売上原価・経費・利益・借入金返済額に加え、売上達成の具体策と、計画を下回った場合の資金繰りを記す欄があります。

  1. 開業月から12か月程度を月別に並べる
  2. 認知、リピート、採用、繁閑による客数・件数の変化を反映する
  3. 売上に連動する仕入と、毎月発生する固定的な経費を分ける
  4. 借入金返済を含め、現金が不足する月を確認する
  5. 売上が計画を下回る場合の対応と補てん資金を整理する

例えば基準の月商を127万円としたら、弱気ケースでは客数を20%減らした約102万円でも試算します。原価だけを同率で下げ、家賃などの固定費は据え置き、利益と手元資金がどう変わるか確認します。

避けたい書き方と改善方法

売上予測で避けたい表現
避けたい書き方不足している点改善方法
月商300万円を目指す目標であり、販売量の根拠がない単価、数量、営業日数に分解する
近隣に人が多いので毎日満席対象顧客、時間帯、来店率が不明時間帯別に客数を置き、集客策と対応させる
半年後は売上が2倍になる増加の時期と施策、提供能力が不明販促・採用等の実行時期と、変わる計算要素を書く
業界平均と同じ売上になる立地、規模、価格の違いを反映していない平均は比較材料にし、自店の条件で補正する
売上だけ増え、経費は同じ仕入や人員等との整合がない売上原価と追加経費も同時に計算する

完成前のチェックリスト

  • 売上高を単価、数量、営業日数などに分解した
  • 業種と販売方法に合う計算式を選んだ
  • 各数字を選んだ理由を資料または経験から説明できる
  • 店舗、設備、人員、営業時間で実現できる販売量である
  • 商品構成と客単価、取引先と受注額が一致している
  • 創業当初から満席・フル稼働になる前提にしていない
  • 軌道に乗る時期と、売上が増える理由を示した
  • 売上増加に伴う原価・人件費・その他経費も見直した
  • 月別の立ち上がりと繁閑を確認した
  • 売上が下振れした場合の利益・資金繰りも試算した

よくある質問

創業前で実績がない場合、何を根拠にしますか?

自店の価格表、店舗図面、設備能力、営業時間、人員計画、受注見込み、同業勤務時の経験など、開業前でも確認できる事実を組み合わせます。一つの資料だけで断定せず、複数の計算方法で無理がないか確認します。

業界平均をそのまま使ってよいですか?

業界平均は比較材料になりますが、立地、面積、価格、営業時間、業態が自店と同じとは限りません。自店の条件との差を説明し、設備や客数から積み上げた予測と照合してください。

季節変動が大きい事業はどう書きますか?

創業計画書の月平均だけでは伝わりにくいため、月別収支計画を併用し、繁忙月・閑散月の売上、経費、資金残高を示します。月平均と月別合計が矛盾しないようにします。

契約前の見込み案件を売上に入れてよいですか?

確定受注と見込みを区別し、相手先、時期、金額、確度を事実に沿って整理します。未確定案件だけで計画を成り立たせず、成約しない場合も試算してください。個別の資料の扱いは申込先の公庫支店に確認しましょう。

売上予測ができれば事業の見通しは完成ですか?

完成ではありません。売上原価、人件費、家賃、支払利息、その他経費を差し引いて利益を計算し、借入金返済や税金、個人事業なら生活費も含めて継続できるか確認します。

まとめ

創業時の売上予測は、希望額を書く作業ではなく、事業の販売能力と顧客獲得の見込みを数字で組み立てる作業です。業種に合う式へ分解し、単価・数量・営業日数の根拠を示します。創業当初と軌道に乗った後を分け、月別収支と下振れケースまで確認すれば、計画書のほかの項目ともつながる説明になります。